盲牌する。
全ての麻雀打ちが夢想するシーンがある。
南四局一本場。一着とは20100点差のラス目。
スポットライトの下。溜息が響く。考えるべきは他にない、勝負か。
「......リーチ!」
手堅く三着に上がるために勝負を避ける手はあった。しかし、弱い。何より直感がそれを選ばせなかった。
牌山に手を伸ばす。力が入る。
掴んだ牌をゆっくりと持ち上げた時、指が七萬を教えた。
盲牌とは
麻雀牌は模様を彫ってあるので、牌の種類によって手触りが異なります。
そして、牌の模様を目で見ずに手触りだけで識別する技術を「盲牌」と言います。
通常、盲牌は牌を裏返したまま親指(または中指)で模様を触って行います。
盲牌ができる打ち手は、周りから一目置かれます。
盲牌できることが熟練者の証だからです。
人間、一目二目は置かれて生きていきたいですから盲牌できるようになっちゃいましょう。
ところで、麻雀では持ってきた牌を目で見て確認できるので、盲牌ができたからといってゲームが有利になることはありません。
「盲牌ができる」というのは「卵を片手で割れる」くらいのことです。
さらに言えば、麻雀初心者の私が盲牌だけ練習するというのは、カレーしか作れないのに卵を片手で割る練習をしているようなものです。
こうなると、むしろ、できてしまうことがダサいような気がしますが麻雀と卵焼きの練習は後から追いかけることにします。
初めての盲牌
まずは、今の時点で自分がどれくらい盲牌できるか確かめます。
私の麻雀歴は2年足らず。最近は月に1~2回、必ず雀荘へ足を運んでいます。
いつの間にか指が勝手に覚えていた、なんてこともあるかもしれません。
それに、幼少期からバイオリンを習っていたので指先には自信があります。
麻雀牌は全部で34種類あります。
34種類を1枚ずつ裏向きでシャッフルし
制限時間3分以内に盲牌で全ての牌を当てることを目指します。
では、スタート!
『サンソウ!🀒』
『キューピン!🀡』
『サンソウ!🀒』
『サンソウ!🀒』
......
【結果】
正答率:20%(7/34)
盲牌の練習
バイオリンは左手で弦を押さえるので関係ない話でした。
気を取り直して、盲牌を練習していきましょう。
盲牌の練習方法を調べてみると
麻雀牌を盲牌の難易度別に分けて練習する
というものがありました。
これに倣って麻雀牌34種を☆1~4に分類し、☆1の牌を全て盲牌できれば☆2を、☆2の牌ができれば☆3を...と公文式で練習することにします。
参考までに、練習~クリアにかかった時間と、盲牌した回数(各難易度の牌を1周する毎に1回)を計測します。
☆1
『へへ... きたぜ ぬるりと...』
- クリア時間 1秒
- クリア回数 1回
☆2
ここからが本番です。
まずは、それぞれの牌の手触りを覚えます。
『イーピン🀙は親指にパチッとはまる感覚があるなぁ』
『サンソウ🀒はシュッてなる。マリオカートの加速するとこみたい』
最初の盲牌では、やたらサンソウを連呼して「サンソウローラー」をかけてしまいました。
今後は、マリオカートの加速するとこの感覚があったらサンソウだと分かります。
ところが、練習の中でサンソウ🀒とスーソウ🀓を度々間違えてしまいます。
スーソウもマリオカートの加速するとこだったからです。
結局、7種類しかない牌を当てるのに6回もやり直してしまいました。
幸先が不安です。
- クリア時間 5分
- クリア回数 7回
☆3
『字牌(漢字一文字の牌)だとチュン🀄が一番分かりやすい。その次はシャー🀂。四角の中に親指がピタッとはまった時に独特の感触がある』
『キューピン🀡とイーソウ🀐の感触は似ているので注意。イーソウに描かれている鳥の羽をしっかり触ることが大事』
30分も牌を撫でまわし続けたので、親指の付け根が痛くなってきました。
腱鞘炎にでもなってしまえば、左手で一からやり直しです。
休み休み続けて、何とかクリアしました。
- クリア時間 38分(休み休み)
- クリア回数 10回
☆4
いよいよ最終段階です。
ここは萬子(漢数字の牌)の識別がポイントです。
『一度触って「萬子だ!」と思ったら、指先を漢数字の位置に当ててグッと押す。指先の肉をめり込ませた感覚で何の数字か当てる。もはや、気合』
部屋の隅で目を閉じたり開けたりして、ひたすら盲牌を繰り返します。
段々と心地良さが胸に広がってきて、穏やかな気持ちになってきました。
外からヒグラシの声が聞こえます。
- クリア時間 1時間52分(途中寝た)
- クリア回数 15回
最終結果
全てのレベルをクリアしました。
最後に、もう一度34種類を盲牌した正答率を今回の最終結果とします。
今なら、分かります。
なぜ人は盲牌をするのか。
一目置かれたいとか、他人にひけらかしたいとか、そんなことではありません。
盲牌とは、自分と”対話”し、自分を”見つめる”時間なのです。
それでは、よろしくお願いいたします。
『サンソウ!🀒』
『キューピン!🀡』
『サンソウ!🀒』
『サンソウ!🀒』
......
【結果】
正答率:20%(7/34)
終わりに
これは大切なことですが、実際の麻雀対局中に牌をグリグリ触って盲牌することは一般的にマナー違反とされています。
マナー違反とされる理由の1つは、盲牌することが余計な時間をかける遅延行為になるからです。
そのせいか、麻雀プロの中にも盲牌できない人はいます。
できないくらいが丁度いいんです。
背伸びしない姿がカッコいいんです。
これまで数々のタイトルを獲得してきた土田浩翔プロは、こうおっしゃっています。
盲牌という行為は、牌の顔を触っているということです。その痛み、悲しみを分かって、盲牌で悲鳴を上げている牌たちをもっといたわってあげるようにしないと(牌が)味方になってくれません。
私は盲牌を止めて、牌を一つずつ丁寧に磨き始めました。
夕日に照らされた牌たちは皆、いい顔をしていました。